『クレア』今昔物語【新保信長】新連載「体験的雑誌クロニクル」13冊目
新保信長「体験的雑誌クロニクル」13冊目
きわめつきは「タブーをつく!」(92年5月号)だ。「これがなぜ『タブー』なの?」として、皇室、従軍慰安婦、憲法改正、南京大虐殺といった項目を解説したかと思えば、アイヌや在日韓国人、障害者、同性愛、ハンセン病などへの差別を取り上げる。さらには部落解放同盟女性活動家へのインタビューもあった(聞き手は江川紹子)。
特集のみならず、ファッショングラビアも攻めている。カッチリしたきれいな写真ではなく、ニュアンスのある写真を多用。ストーリー仕立ては珍しくないが、「1990年、一番のおしゃれは裸です」(1990年5月号)と謳って、上半身裸の男女がジーンズだけをまとった姿を写したのは大胆だ。「スーパーマーケットにはおしゃれがいっぱい」(同6月号)では、ダイエー、ジャスコ、無印良品、キンカ堂、大丸ピーコックなどのアイテムをメインにした着こなしを見せる。まあ、モデルが着れば何でも素敵に見えるというのはあるにせよ、こうしたひねりの効いた誌面は見ていて楽しい。

連載・執筆陣の豪華さは言うまでもない。橋本治、中野翠、柴門ふみ、林真理子、藤原新也、神足裕司、ナンシー関、大月隆寛、酒井順子、原田宗典、オバタカズユキ、横森理香、町山広美、岡崎京子、豊崎由美、石川三千花……。故人や今となっては残念な感じになってしまった人もいるが、当時の最先端を走る書き手たちが健筆を振るっていた。数ある女性誌の中で、『クレア』が独自のポジションを築いていたことは間違いない。
しかし、8年目に突入した1997年1月号において、ひとつの転機が訪れる。クレア名物だった「NEWSY CREA ニュースが大好き!」のコーナーがリニューアルし、「What’ On!? 好奇心でいっぱい!」に看板が掛け替えられたのだ。
ちょうどその号の「読者のページ」に次のような投稿が載っていた。
〈硬派を自称する私の同僚F子は、「『ニュースが大好き!』が最近当り外れがあるから、毎月は買わないわ」と言います。けれども、私は特集の内容に左右される軟弱者ではありません。毎月欠かさず買い続けています。(中略)似たり寄ったりの雑誌が多いなか、クレアだけが持っている魅力って一体何なんだろう、って自分なりに考えるときがしばしばある。クレアの真骨頂、それはずばり他誌の追随を許さぬ「上質悪口コラム」の充実度だと思うのです〉
この投稿を見て「ニュースが大好き!」の看板を外したわけではあるまいが、コラムの充実度が魅力という意見には同意する。雑誌を習慣的に買うかどうかは、コラムなどの連載に負うところが大きい。とはいえ、他誌ではやらないとんがった特集も『クレア』の魅力だったはずだ。
ところが、この号を境に特集の方向性が大きく変化する。2月号「母に、なる。」は同誌らしい切り口で名物特集となるが、そこから先が急転回。「モードを探せ!」「春だから、新しい私に!」「大切な人と行きたい温泉・スパエステ100」「『私』がいちばんキレイに見える髪型発見BOOK」「何もかも忘れて南の島に行く!」「欲望のイタリア」「秋の流行服のすべて」「コスメの王道」「髪型美人BOOK」と、どこにでもある女性誌のようで、思わず「どうしちゃったの、クレア?」と言いたくなる。
そして、1998年1月号をもって判型とタイトルロゴが変わり、ますます普通のファッション誌っぽくなった。特集テーマも、コスメ、髪型、本、映画、旅、グルメ、贈り物……と定番化。もちろん需要があるからそういうテーマを取り上げるのだろうけど、個人的には手に取ることもほとんどなくなってしまう。
最近唯一買ったのが、「発表! 夜ふかしマンガ大賞」の号。最近といっても2022年秋号だから、もう3年近く前だ。というか、いつのまにか季刊に変わっていた。調べてみたら、2021年1月号までが月刊で、それ以降、季刊になったらしい。マンガ特集をやるなら私にも一声かけてほしいところだが、特集自体は面白く読んだ。
「ニュースが大好き!」を旗頭としていた初期の『クレア』と現在の『クレア』は、まったく別の雑誌である。どちらがいい悪いではないし、路線変更にはそれなりの理由があったのだろう。が、かつての『クレア』で扱われた社会問題の多くは、今も解決されていない。『クレア』の先進性もさることながら、人類の進歩のなさに呆然とする。
前述の読者アンケート「CREAの通信簿」(1991年3月号)の回答者は、20代が79%を占めていた。三十数年の時を経て50代となった彼女らは、今の『クレア』は読んでいないだろう。じゃあ何を読んでいるのかと考えて、思い浮かんだのが『週刊文春WOMAN』だ。「いつもの女性誌には載ってないこと。いつもの週刊文春にも載ってないこと。」というキャッチフレーズは、かつての『クレア』の魂を引き継いでいるような気もする。あの開拓精神には遠く及ばないけれど。
文:新保信長